「おいで・・・」
そういって待っている俺を・・・は眺めている
「ん??」
口を少し尖らせているのはいつもの表情
何か気に入らないことでもあるのだろうか
「こいよ」
そう強く言って初めては俺の隣に座った
俺は手を伸ばし・・・の頬に触れる
は・・・目を閉じて俯いた
俺は、そんなの顎を持って上を向けさせる
淡色の口紅・・・
指先で唇をそっとなぞり・・・そのままの髪の中へ手を入れる
ふわりと揺れた髪からの香りがした
引き寄せる俺の力に・・・の抵抗
わずかな違和感を感じながらも、ぐっと引き、唇を頬に寄せた
は目を閉じたまま・・・じっとしている
俺は・・・頬に口付けて、優しく唇を合わせた
そして舌先で・・・の唇をこじ開けようとすると
「んんっ・・いやっ!」
「え・・・?」
は・・・俺の腕の中から離れ、座りなおしてじっと俺を見た
「珪くん、まだ昼間でしょ?」
「ん・・?」
「だからぁ・・・、エッチなことばっかりしたがらないでよ、もぉ」
そういうと、は立ち上がり俺を見下ろした
・・・エッチなことばっかり
そうだよ、エッチなことを期待したよ、俺は
だからって・・・悪いのか?
「せっかく旅行にきたんだよ?
そんなことばかり考えてないでどこか出かけよう?」
そんなことばかりってのは・・・随分な言い方だろ
確かに、俺は最近そんなことばかり考えてるかもしれないけれど
「ねえ、どこか行こうよ」
「・・・・どこかって・・どこだよ?」
「どこでもいいよ、ここにいると襲われそうだから、どこか行こう!」
そういってはクスクスと笑った
俺は・・・深い落胆を覚えていた
確かに、身体ばかり求めるのはよくないだろう
そのくらいのことは分かってる
だけど・・・・、この旅行のためにどれだけ苦労したか
おまえ・・・分かってるのかよ
きつめのスケジュールをどうにかしてもらった
スタッフには俺の予定に合わせてもらった
だから・・・コーヒーをご馳走して頭を下げた
昨日だって・・・撮影が終わったのは午前3時だ
それから家へ戻って・・・旅行の支度をあわててした
それもこれも・・・おまえと過ごすためで
おまえのために、この宿だって取った・・・・
「ねえ、行くの?行かないの?」
「行くよ・・・」
「どこに行こうか?駅の近くだったら何でもあるよね」
「どこでもいいよ・・・おまえが決めろ」
「それじゃあ、とりあえず、タクシー呼んでもらって」
・・・
俺はフロントへ電話をして・・・・車を頼む
タクシーは呼んでもすぐには来ないからと
女将が宿の車を手配してくれた
は・・・ウキウキと車に乗り込み
俺は、重苦しい気持ちを引きずったままの後をついていった
車はさっき来た道を引き返す
真っ青の海・・・そして心地よい潮風
けれど、そんな夏の風景とは程遠い鉛色の俺の気持ち
ただ単に・・・俺はSEXだけを求めている、はそう感じているのだろう
そう思うと・・・なにもかも、やる気が失せた
ただ少しだけでよかった
の身体を抱きしめて・・・その匂いに包まれたかったんだ
だけど、は・・・そんな俺を拒絶した
「ねえ、珪くん、ティディベア博物館に行きたい
ここから歩いていけるよ、どうする?」
駅前の観光案内看板を見ながら・・がそう俺に言う
「ああ・・・じゃ、そこへ行こう」
の思うまま・・・俺はその場所へ歩いてゆく
道の両端には・・・観光地らしく土産物屋が立ち並んでいる
どこを見るでもなく・・・そんな「風景」を眺めながら俺は歩いた
10分ほど行くと・・・目的地の博物館に到着した
入館料は1260円
俺は二人分の金額を窓口で払い・・・中へ入る
「うわぁ・・・見て見て、珪くん、可愛い〜!!」
展示されているのは、全部クマのぬいぐるみ
ティディベアだから・・・当たり前のことか
はそのどれもじっくり眺め・・嬉しそうに見て回っている
その後姿を視界に入れたまま・・・ただ俺は歩いていた
「ねえ、ティディベアの歴史シアターってのがあるんだけど
30分くらいだって、珪くん、見ようよ」
30分・・・・
ただでさえ眠いのに・・・30分暗がりにいたら、俺は寝るぞ
「ん・・・・、コーヒーでも飲んでる
おまえ一人で見てこい、いいだろ?」
「う〜ん、一緒に見ないの?」
「ん・・・・喫茶店があっただろ、そこにいる」
「うん、わかった、それじゃ、ちょっと行ってくるね」
少し納得いかない、そんな顔をしていたけれど
自分で見たいものだったんだろう・・・
は・・・シアターの中へ消えていった
俺はそれを見送って・・・博物館の中にある喫茶店へ向かった
ティディベア博物館・・・
その名にふさわしく、喫茶店のコーヒーカップまですべてベア柄
店の中は菓子の甘い香りで充満していた
海辺の博物館・・・
この場所へ来るのは、海水浴が目的の人が多いんだろう
誰一人として客はいなかった
俺は端の席へ座り・・・ほっと一息ついた
けれど、それも束の間・・・
『どこでもいいよ、ここにいると襲われそうだから』
そういって笑ったの顔が・・・俺の脳裏に浮かび上がる
俺は・・・わがままを言ったのか?
自問自答したところで・・・解決する答えなど得られない
それからしばらくの間・・・ただコーヒーを傾けていた
ぼんやりと空になったカップを眺めているのにも飽きた俺は
喫茶店を出て・・・博物館をぶらぶらと歩いた
「あの・・・」
目の前に一人の女
俺は視線を下ろし・・・サングラス越しにその女を見た
「葉月珪さん・・・・ですよね?」
こんなところでまで・・・営業用の顔は出来ない
俺は・・・ふぅっとため息をつくと
「違う」
そう答えた
「え?ち、違うんですか?」
「・・・似てるってよく言われるけど、違うから」
「本当にそっくり・・・でも違うんだ、ごめんなさい、間違えちゃいましたね」
「ああ、かまわない」
「あの・・・」
女は俺の言葉を信じたのか信じていないのか・・・
目の前から立ち去ろうとしなかった
「ん?」
「旅行ですか?」
「ああ・・・、そんなとこ」
「私も友達と一緒にきてるの
皆は海で泳いでいるんだけど、ここにきたかったから一人で別行動」
「一人で・・・クマのぬいぐるみを見に?」
「うん、可愛いでしょ、好きなの」
普段なら・・・・話をするようなことなど一切ない
けれど・・・今の俺は、普段とは違っていたのだろう
「あの・・・」
「ん?」
「名前、教えてもらってもいい?」
「・・・名前」
「うん、もしよければ・・・」
「葉月・・珪・・ゾウ」
「え・・?」
「葉月珪のクローンなんだ・・・俺、だから葉月珪ゾウ」
「ぷっ・・あははは」
訳の分からないことを言って・・・俺はなんだか少し嬉しかった
目の前の女が笑ってくれたからかもしれない
「じゃ、珪ゾウくん、もしよければ、メールしてね」
「え・・?」
「海岸通りのホテルに泊まってるの
明後日までは、そこにいるから」
そういうと・・・
女はカバンの中から取り出した紙切れにアドレスを書いた
にっこりと笑顔でその紙を差し出して・・・俺を見ている
「俺・・・連れがいるから」
「もちろんわかってるよ、男の人が一人でここに来るわけないもの」
「・・・」
「メール待ってるね」
そういうと、強引に俺に紙を押し付け、女は背中を向けた
cute_bear903@habatakiweb.ne.jp
手のひらのアドレス・・・・
俺は・・・パンツのポケットにそのまま突っ込んだ
「珪く〜ん!」
しばらくすると・・・が俺を呼ぶ声が聞こえた
「喫茶店にいるっていったのに・・・いなかったから探したよ〜」
「ごめん・・・コーヒー一杯じゃ30分もたなかったから
で、クマの歴史は面白かったのか?」
「うん、いろいろ勉強になるもんだね、私もベアを作りたいなぁなんて思っちゃった」
「へぇ・・・」
それから俺たちは・・・クマの博物館を見て回った
どのクマを見ても可愛い可愛いとは大満足だったみたいだ
そして俺たちは・・・駅前へ戻って
まだまだ時間があったから、ボウリングをした
1500円で投げ放題・・・・
考えただけで気の遠くなるような状態だったけれど
エッチなことを考えないために、体力を使い果たしてしまったほうがいい・・・
そう思って俺は投げ続けた・・・
そんな俺につられて・・・も必死になって投げ続け
二人ともに、文字通りへとへとになって、午後7時ぎりぎりに宿へ戻った
すぐに食事の用意がされて・・・俺たちは豪華な夕食を楽しんだ
さすがに老舗の旅館だけあって・・・
その内容は今まで食べたどんな和食にもひけをとらなかった
まあ・・・、一泊二人で13万6千円
決して安くはないだろうこの金額で・・・飯がまずかったら困りものだ
夕飯を済ませて・・・俺は風呂に入ることにした
離れのこの部屋には露天風呂がついている
「一緒に入ろう」と誘ったら・・・はなんと返事をするのだろう
少し迷って俺は・・・「本館の風呂に入ってくる」そう言った
「そうなの?広いお風呂の方がいいもんね」
「ん・・・おまえは?」
「うん、私も本館にいってこよう
あ、珪くん、浴衣に着替えてから行けば?」
「ん?そうだな、じゃ、そうする」
にそう勧められ・・・俺は浴衣に着替え
着ていた服は、適当にクローゼットの中に放り込んだ
「じゃ、行くぞ」
「うん、あ〜、珪くん服がしわになるよ、もぉ」
「ん?」
「いいよ、私がかけておくから、先にお風呂いってて」
頷いてお風呂へ向かった珪くんを見送って
私は珪くんが脱ぎ散らかした洋服をクローゼットの中のハンガーにかける
黒いシャツ・・・素っ気無いくらいシンプルな服は、珪くんによく似合っている
でも珪くんは、いつも結構適当で、着るものには気を配らない
だから私がこうして面倒を見てあげなくっちゃ
放り投げてあるパンツをハンガーにかけて、しわを伸ばそうとパンパンと叩いた
すると・・・一枚の小さな紙がポケットから落ちた
なんだろ?
拾い上げて見てみると・・・そこにはアドレスが書かれていた
誰の?
何、これ?
何で、珪くんのポケットからこんなものが・・・?
ぐるぐると頭の中が回り始めた
手のひらの上に・・・携帯電話のアドレスが書かれた紙
私は・・・
next
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